1993年03月15日発売

N.ヒンスケ
人生経験と哲学

平田 俊博 訳
中島 義道 訳
石川 文康 訳

四六判 上製カバー装  340頁
定価:本体2,816円+税
ISBN 4-7531-0166-5 C0010
※カバーに多少汚れあり。(中身は綺麗です)
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近代の哲学はその基本的立場を、もっぱらとは言えないまでも主として、科学的経験に置いている。これにひきかえ本書は、人生経験を――これこそ古代や中世の哲学の最も強力な根源のひとつだったのだが――、哲学にとって劣らず重要な第二の認識源泉として、あらためて記憶に呼びおこそうと試みる。というのも、人生経験とは薄められた経験といったものでなくて、それ自体が別種の経験様式であり、何ものによっても取り替えられえない独自の機を果たすからだ。本書は、こうした経験の痕跡を諸資料と並置し、ほかならぬ私たち自身の生き方にかかわる人生経験という経験のかたちをそっけない単なる情報と並置する。この種の試みにあってとりわけ問題となるのは、次の三つの課題である。
一、人生経験という概念の分析。ここで必要なのは、この概念のもつさまざまな意味の区別、人生経験へと流れ込む最も重要な現存在領域や次元の鮮明化、そして、人生経験と科学的経験の峻別である(第一章)。
二、人間の現存在全体においてある種の決定的役割を果たす、基礎的な人生経験の範例的な研究(第二章―第五章)。したがって、ここで第二課題の中心となるのは、ほかならぬ成功に伴う失望という実に逆説的な人生経験のかたちであり、また、人間に総決算を迫る死の経験である(第五章)。
三、哲学そのものの、また、人生経験に関する哲学の特殊な課題の、より透徹した理解(第六章―第八章)。
そこで、人生経験のもつ役割を活写するというのが本書の具体的なテーマとなる。それは一方では、幸福の諸層を問いことであり、死を問うことであり、また、人間の現存在全体における信仰の意義を問うことである。そして他方では、哲学の始まりを(第六章)、哲学の主題を(第七章)、哲学の自己解説(というよりは、むしろ、さまざまな自己解説)を(第八章)問うことである。プラトン、アリストテレス、セネカ、トマス・アクィナス、ヴォルフ、カントらによる解釈は、同時にまた、歴史的連関ならびにこの連関のうちに蓄積されてきた人生経験をさまざまと浮かび上がらせてくれようとする。
                                       (本書まえがきより)

【目次】
まえがき
序章
第一章 人生経験とは何か
 第一節 人生行路・経験・認識、の内的連関
       ――カントの思索の根本ノティーフ――
 第二節 カントの経験概念の多義性
 第三節 カントの人間学の経験概念 
 (a) 世間知としての経験
 (b) 怜悧としての経験
 (c) 実用知としての経験
 (d) 解説と帰結
 (e) 観察としての経験
 (f) 哲学的人間学としての哲学に特有な課題
 第四節 人生経験の根本次元
 (a) 実用的次元――世間怜悧としての怜悧
 (b) 企投的次元――私的怜悧としての怜悧
 第五節 人生経験の本題としての幸福
 第六節 人生経験のその他の次元
第二章 フォルトゥーナとフェーリーキタースのあいだで
      ――幸福表象の時代的変遷
 第一節 〈幸運である〉と〈幸福である〉
 第二節 幸福表象の形式的性格
 第三節 最後の理由として機能する幸福表象
 第四節 人生の運命と生き方とのアンチノミー
 第五節 合理的問題としての幸福
 第六節 人間の幸福能力への疑念
第三章 幸福と失望
 第一節 幸福表象の人間学的機能――形式的問題としての幸福
 第二節 幸福の現実的可能性とその限界――人生経験の問題としての幸福
 第三節 幸福要求のアポリア――哲学の問題としての幸福
第四章 蒐集の小哲学
 第一節 蒐集という概念のために
 第二節 蒐集の対象
 第三節 蒐集の生活史的な機能
 第四節 蒐集の根源的な動機
第五章 死の経験と生の決断
 第一節 人生の根源的所与としての死
 (a) 考察を開始するに当たっての状況
 (b) 考察遂行に当たっての主導的な思想
 (c) 諸考察の遂行
 第二節 死の経験と生の決断との内的連関
 (a) 期待としての人生
 (b) 期待を実現する試みとしての人生の生
 (c) 期待を実現化しようとする試みの反復としての人生の生
 (d) 人間の期待の実現可能性に対する問いとしての死の問題
 (e) 信仰の決断問題として現れる生の決断の最終的な徹底化
第六章 哲学の開始――ある再構成の試み
 第一節 哲学の開始への問いの持つさまざまな意味
 第二節 開始の喪失とそれを再構成するという課題
 第三節 伝統的回答――哲学の開始としての驚き
 第四節 哲学とは人間が自己の生き方に惑い
        それに対して可能的に反応することである
 第五節 哲学の根源状況
 (a) 幸福な生活への問い
 (b) 正しいエートスへの問い
第七章 哲学のテーマ――現代における哲学の状況
 第一節 哲学のテーマへの問い
 (a) 哲学と諸学――哲学の課題への問い
 (b) 哲学とその歴史――哲学の現代的立場への問い
 第二節 数学的自然科学への定位――近世哲学の場合
 (a) 科学性というプログラム
 (b) 学問性の構想
 (c) 学問性の理想
 第三節 倫理学的・哲学的知の数学的知に対する境界づけ
       ――古代・中世哲学の場合
 第四節 生の行状と認識
 (a) 行状は認識を形成する機能を持っている
 (b) 行状の前哲学的知と哲学的反省
 (c) 行状の前哲学的知と全体への問い
第八章 多くの顔を持つ哲学
      ――哲学の自己定義と機能規定の関係によせて
 第一節 哲学は何であり何であろうとするか
       ――この設問に答えるための七つのアプローチ
 (a) 道具による定義
 (b) タイプによる定義
 (c) テーマによる定義
 (d) 計画定義
 (e) 能力定義
 (f) 方法定義
 (g) 衝動定義
 第二節 哲学は何でありまた何であろうとするか
       ――タイプ別定義の三つの現代的現象形態
 (a) 最終根拠づけ型
 (b) 反復型
 (c) 無効宣言型
 (d) 歴史的連続性の問題

初出一覧
参考文献
訳者あとがき
人名索引
事項索引
 
 

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