新しいエコロジーとアート──「まごつき期」としての人新世
長谷川祐子 編
装幀:近藤みどり
装画:Olafur Eliasson
glacial currents (black, blue), 2018
2022年5月9日発売
A5判 並製カバー装 336頁
定価:本体3,200円+税
ISBN 978-4-7531-0369-0
本書は、「人新世」「資本新世」とよばれる新しい環境下で生じてきた自然、 政治、社会、情報、精神面での変化に対する現代美術の応答と変容、そして、これらを伝えるキュラトリアル実践に関して、キュレーター、哲学者、人類学者らによる領域横断的なアンソロジーである。
現代美術と密接に関わる「キュラトリアル実践」は一般に考えられるような「展示」を企画することにとどまらない。それは、展示のみならず、調査、作品、コンテンツ制作、パフォーマンス、ディスカッション、ワークショップ、学習普及プロジェクト、プラットフォームづくり、出版などを多岐にわたる。これらは、身体感覚を巻き込む視聴触覚媒体を通して、共感と知的生産を促し、多様な行為を含むパブリックコモンズを出現させる。
また、地球の存在そのものが危ぶまれる「人新世」をダナ・ハラウェイにならって、SF作家キム・スタンリー・ロビンソンの言葉である「まごつき期 dithering time」として考える本論集では、近年、新たに関心の高まるエコロジー思想と実践に、現代美術(アート)の実践との絡まり合いを読み込む。
今日の「まごつき期」としての「人新世」時代においてエコロジーと現代美術(アート)はいかに応答するのか。国内外の知性とともに、その実践と理論の創造的かつアクチュアルな議論から、「新しいエコロジーとアート」を考える。
目次
序 文(長谷川祐子)
第1章 まごつき期の芸術とキュレーションの役割(長谷川祐子)
第2章 日常の亀裂/亀裂の未来――瓦礫化以後の世界をめぐる表現と思考(篠原雅武)
第3章 「地表空間」をめぐる旅と創造――生の軌道としての民族誌的芸術(石倉敏明)
第4章 エコロジーの美術史(山本浩貴)
第5章 植物の生の哲学と芸術(エマヌエーレ・コッチャ×長谷川祐子、中野勉訳)
第6章 ヒト、モノ、幽霊たちとの調停――中園孔二とナイル・ケティングの芸術実践(黒沢聖覇)
第7章 庭のエコロジーとキュレーション(高木遊)
第8章 展覧会の意義と用法――表象の実験、ならびに2つのフィールドブックから(ブリュノ・ラトゥール、鈴木葉二訳)
解 説 思考実験としての展覧会(鈴木葉二)
第9章 錯乱のミュージアム――アニミズムの再考を通して近代を問うキュラトリアル実践(アンゼルム・フランケ、中野勉訳)
第10章 タイプやスワイプする親指(ローレン・ボイル、中野勉訳)
編者紹介
長谷川 祐子 (ハセガワ ユウコ)
京都大学法学部卒業、東京藝術大学大学院修了。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授、金沢21世紀美術館館長。
これまでイスタンブール、上海、サンパウロ、シャルジャ、モスクワ、タイなどでの国際展を手がける。主な著書にKazuyo Sejima + Ryue Nishizawa: SANAA (Phaidon Press, 2006)、”Performativity in the Work of Female Japanese Artists In the 1950s-1960s and the 1990s,” Modern Women: Women Artists at the Museum of Modern Art. (MoMA, 2010)、『破壊しに、と彼女たちは言う──柔らかに境界を横断する女性アーティストたち』(東京藝術大学出版会、2017)、「新しいエコロジーとアート ーClouds⇄Forests展にそってー」、『東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科論集 第1号』(東京藝術大学大学院、2020)、『ジャパノラマ:1970年以降の日本の現代アート』(水声社、2021)など。