価値論──人類学からの総合的視座の構築
デヴィッド・グレーバー/藤倉達郎 訳
装幀:市川衣梨
2022年12月2日発売
A5判 上製カバー装 592頁
定価:本体4,800円+税
ISBN 978-4-7531-0371-3
21世紀の『経済学批判』
『負債論』(2011)そして『ブルシット・ジョブ』(2018)などの著作でその名を世界中に轟かせたデヴィッド・グレーバーが2001年に出版したデビュー作(Toward an Anthropological Theory of Value)の待望の翻訳。
本作は、グレーバーが博士論文の出版を後回しにしてまで自身の課題に取り組んだ「最初の主著」であり、また彼のライフワークともなった「価値の総合的理論の構築」へ向けた「最初の一歩」である。
デビュー作とは思えない(あるいはデビュー作ゆえの)博覧強記で、これまでの彼の著作以上に読者を困惑させるその筆致=思索には、のちに数々の作品で「価値転覆」的な発想をもって世界を驚かせてきたグレーバー思想のエッセンスが集約されており、徹頭徹尾「エコノミズム(経済主義)」批判に貫かれた本書において、その概念に対置された「コミュニズム」は一体いかなる像を結ぶのか?
シカゴ大学人類学科でグレーバーと同僚だった藤倉達郎氏によるリーダブルかつ正確な翻訳でお届けする、グレーバー思想の源流。
目次
序にかえて
第1章 価値を語る三つの方法
クライド・クラックホーンの価値プロジェクト
利益を最大化する個人
構造主義と言語学的な価値
結論
第2章 交換理論の現在の潮流
マルクス主義の興隆とその後
経済人の再来
アパドゥライの「価値の政治」
補足的説明──アネット・ワイナーの譲渡不可能なモノ
ストラザーンのネオ・モース派アプローチ
マルクス主義による批判、モース派の返答
総合に向けて?
ナンシー・マン──行為の価値
結論(なぜこんなに行為が少ないのか?)
第3章 行為の重要性としての価値
西洋的伝統の裏面
マルクスの価値論
「人間行為論的(praxiological)アプローチ」
動態的構造
自己中心性と部分的意識
象徴分析としての『資本論』
市場なき社会
バイニング―生産と実現
カヤポ―家庭内サイクルと村の構造
価値のト ークン(しるし)
価値、価値観、フェティシズム
第一の覚書──否定的価値
第二の覚書──直接的収奪と間接的収奪
結論──千の全体性
第4章 行為と反影、あるいは富と力の理論へむけての覚書
富の誇示
行為(action)と反影(reflection)
「貨幣」対「硬貨」
フェティシズムのさまざまな種類
マダガスカルと奴隷貿易
オディとサンピィ
供犠とお守りの創出
政治的次元、あるいは儀礼的生贄としての税
展望と結論
第5章 ワンパムとイロコイの社会的創造力
ワンパムの起源
名前の復活
戦争と社会構造
平和をつくる
「偉大なる平和」の起源
循環と歴史
創造と意図性
夢の独裁
真冬の儀式と白犬の生贄
夢の経済
第6章 マルセル・モース再訪
社会契約としての贈与
社会主義理論への貢献としての『贈与論』
モノと人
事例1──クラの腕輪と首飾り
マオリとクワキウトル
事例2──アオテアロアにおける贈り物
事例3──クワキウトルのポトラッチ
結論Ⅰ──いくつかのものごとの解明
結論Ⅱ──政治的および道徳的な結論
第7章 私たちの夢の偽硬貨、またはフェティッシュの問題 Ⅲb
王と硬貨
再考
魔法とマルクス主義
魔法と人類学
魔法的な態度と宗教的な態度
クトゥルフの建築家
結論
マルクス対モース、ふたたび
謝 辞
『価値論』の背景と概説─訳者あとがきにかえて
シカゴ大学の人類学
本書の概説
本書執筆前後のグレーバー及び本書翻訳の経緯
原 注
文 献
主要用語索引
主要人名索引
著者
デヴィッド・グレーバー(David Graeber)
1961 年ニューヨーク生まれ.ニューヨーク州立大学パーチェス校卒業.シカゴ大学大学院人類学研究科博士課程(1984-1996)修了,PhD(人類学).イェール大学助教授,ロンドン大学ゴールドスミス校講師を経て,2013年からロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授.2020 年死去.
邦訳書に,『アナーキスト人類学のための断章』(2006 年),『負債論──貨幣と暴力の5000 年』(2016 年),『官僚制のユートピア──テクノロジー,構造的愚かさ,リベラリズムの鉄則』(2017 年,共に以文社),『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』(2020 年,岩波書店)ほか.日本語のみで出版されたインタビュー集として『資本主義後の世界のために──新しいアナーキズムの視座』(以文社,2009 年)がある.
著書に,Lost People: Magic and the Legacy of Slavery in Madagascar (IndianaUniversity Press, 2007), Direct Action: An Ethnography (AK Press, 2007). ほか多数.
マーシャル・サーリンズとの共著に,On Kings( HAU, 2017, 以文社より刊行予定),また遺作となったデヴィッド・ウェングロウの共著に,TheDawn of Everything (Farrar Straus & Giroux, 2021) がある.
訳者
藤倉達郎(ふじくら たつろう)
1966 年京都生まれ.アーモスト大学卒業.イェール・ロー・スクール修士課程修了,LL.M.
シカゴ大学大学院人類学研究科博士課程(1992-2004)修了,PhD.現在,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授.専門は人類学と南アジア地域研究.特にネパール・ヒマーラヤ地域における社会運動や開発現象などについて調査を行なっている.
著書に Discourses of Awareness: Development, Social Movements and the Practices of Freedom in Nepal (Martin Chautari, 2013), 共著書に The Noodle Narratives: The Global Rise of an Industrial Food into the Twenty-First Century
(University of California Press, 2013), 共編著にThe Dynamics of Conflict and Peace in Contemporary South Asia: The State, Democracy and Social Movements (Routledge, 2021).
日本語論文に「暴力と忘却 ──ネパール内戦下の生活と死者,強制失踪者」田中雅一他編『インド──剥き出しの世界』(春風社,2021 年),訳書にアルジュン・アパドゥライ『グローバリゼーションと暴力──マイノリティーの恐怖』(世界思想社,2010 年)など.