〈消費者〉の誕生
── 近代日本における消費者主権の系譜と新自由主義
林 凌
装幀:川邉 雄
2023年5月16日発売
四六判 上製カバー装 504頁
定価:本体4,600円+税
ISBN 978-4-7531-0375-1
日本の消費者主権論の展開、あるいは反-マルクス主義思想の実践史
かつて、〈消費者〉による社会の変革を夢見た人びとがいた。急進的労働運動のオルタナティブの形成を目的として、日本における婦人運動の限界を打ち破ることを目的として、あるいは利己と利他の二項対立を超克した協同社会の樹立を目的として。
さまざまな思惑が渦巻くなかで、〈消費者〉をめぐる言説空間は急激に拡大していき、戦間期日本におけるひとつの思想潮流を形づくる。だがそれは、戦中期の「総力戦体制」に、すべての人びとの生を投棄することを許容する論理までも提供するものであった。
翻って、私たちは現在〈消費者〉として生きることを当たり前のように思っている。多くの研究者は、私たちがもつアイデンティティが、〈労働者〉としてのそれから〈消費者〉のそれへと移り変わってきたことを指摘してきた。では、この私たちの生の有り様を肯定する論理はいかなる背景のもと形成されてきたのか。そしてそれは、どのような可能性を排除するものであったのか。
戦間期日本において、マルクス主義への反発のなかから「消費者主権」という思想が形成されたことを示し、その影響の根深さを示す。〈消費者〉あるいは「消費社会」の歴史と「いま」を考えるための、必読の書。
目次
はじめに
序 論
一 問題の所在
二 先行研究の検討
三 本書の意義
第一章 〈消費者〉言説の分析の方法
一 英語圏における消費者主権の系譜
二 近代日本における消費者主権の系譜の同定
三 消費者概念とほかの概念との結びつきを捉えること
四 本書の構成と分析資料体の設定
第二章 近代日本における消費者概念の受容過程──経済学の普及と制度化
一 近世日本における〈消費者〉の不在
二 消費の社会問題化──近代日本における経済学の受容過程
三 自覚した主体としての消費者像の登場
四 人びとが〈消費者〉を語るとき──「自利」と「社会」の協調可能性
第三章 社会改良主体としての〈消費者〉──消費組合運動と婦人運動の勃興と変容
一 日本における消費組合運動の形成過程
二 社会改良の担い手としての〈消費者〉──市民消費組合の存立可能性
三 社会政策学に基づく消費組合運動の定式化──企業に対置される〈消費者〉
四 婦人運動と消費組合運動の接合
五 〈資本家〉でもなく〈労働者〉でもない主体の意義
第四章 庇護対象としての〈消費者〉──商業学者による統制経済論の展開
一 ポスト大恐慌期における商業学と統制経済論の接続
二 国民と〈消費者〉が結びつくとき
三 経済政策提言における〈消費者〉保護的視点の拡大
四 〈消費者〉が国家の庇護対象とみなされるとき
第五章 〈消費者〉としての国民の「自覚」──戦時期日本における消費経済の問題化
一 戦時期日本における消費をめぐる問題
二 戦時期日本における統制経済論と消費組合運動の展開
三 戦時期婦人運動における〈消費者〉の居場所
四 戦時期日本における「消費者志向」の形成過程
五 国家のための〈消費者〉/〈消費者〉のための国家
結 論
一 本書の知見整理とその考察
二 本書の知見を踏まえた先行研究への応答と今後の展望
あとがき
注
参考文献
主要用語・人名索引
著者
林 凌(はやし りょう)
1991年生まれ。 東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学、博士(社会情報学)。
現在、日本学術振興会特別研究員(PD)。専門は消費社会論、歴史社会学。
論文に「出来事としての都市を考えるために」(『惑星都市理論』所収、以文社、2021年)、「労働問題の源泉としての「新自由主義」?」(『労働と消費の文化社会学』所収、ナカニシヤ出版、2023年)など。