負債と信用の人類学
──人間経済の現在

佐久間 寛編

箕曲 在弘、小川 さやか、佐川 徹、松村 圭一郎、酒井 隆史、デヴィッド ・グレーバー、キース・ハート、田口陽子、林愛美

装幀:近藤みどり
2023年6月1日発売
A5判 上製カバー装 396頁
定価:本体4,200円+税
ISBN 978-4-7531-0376-8

 2020年に急逝した文化人類学者デヴィッド・グレーバー。その思考の意義は、未だ汲み尽くされぬ魅力と価値に溢れている。日本でも『価値論』『負債論』『官僚制のユートピア』『アナーキスト人類学のための断章』(以文社)、『ブルシット・ジョブ』(岩波書店)などをはじめとするその著作は、現代社会を鋭く批評し、専門分野を超えてさまざまな議論がなされてきた。
 とりわけ、2011年(日本語訳は2016年)に刊行された『負債論』は、貨幣と負債の秘密を5000年の人類史から読み解き、同時代の金融危機の記憶と影響とあいまって、人々に大きな衝撃をもたらす、世界的なベストセラーとなった。

 本書は、グレーバーの「人間経済 human economy」の概念を手がかりに、『負債論』で提起された経済や政治をめぐる思考を、さらに先へと推し広げていくべく編まれた論文集である。
 新型コロナウイルスの流行、ウクライナ危機と連動した世界的な不況が広がる今日、「他者を信じ、他者に追う」営みによって新たな社会関係と価値を創造する「人間経済」の可能性とは何か、文化人類学的視座から考察していく。

※本書は、2021年に開催された文化人類学公開シンポジウム「人類学からみる現代世界の信用と負債──「人間経済」に向けて」の成果に基づく登壇者による論考をまとめた第Ⅰ部、グレーバーの著作の翻訳を多く手掛ける酒井隆史氏による特別寄稿論文、グレーバー本人の未翻訳論文、グレーバーが『負債論』執筆にあたって大きな影響を受けた経済人類学者キース・ハートによる、『負債論』の書評論文を追加収録した第Ⅱ部、そして第Ⅰ部の執筆陣(シンポジウム登壇者)による本書の総括である座談会を掲載した第Ⅲ部からなる。


目次

諸 言 

第Ⅰ部
序 章 信用、負債、返済(佐久間 寛)
第一章 商業経済と絡まり合う人間経済のありか――ラオスのコーヒー産地における農家による金貸しからの逃避をめぐって(箕曲在弘)
第二章 時間を与えあう――商業経済と人間経済の連環を築く「負債」をめぐって(小川さやか)
第三章 暴力の貸しを取り返しに行く――東アフリカ牧畜社会における復讐/感染/代替の論理(佐川 徹)
第四章 負債と労働の関係――グレーバーの『負債論』と『ブルシット・ジョブ』をつなぐもの(松村圭一郎)

第Ⅱ部
第五章 負債と約束―― 戦前大阪の都市下層社会における貸し借りの論理からみる(酒井隆史)
第六章 世界を生み出すのは価値である(デヴィッド・グレーバー/田口陽子訳)
第七章 負債、暴力、非人格的市場――ポランニー的省察(デヴィッド・グレーバー/佐久間寛訳)
第八章 デヴィッド・グレーバーと不平等世界の人類学(キース・ハート/林愛美訳)

第Ⅲ部
第九章 『負債と信用の人類学』座談会(小川さやか/佐川徹/佐久間寛/松村圭一郎/箕曲在弘)


編者

佐久間 寛 (サクマ ユタカ)
明治大学政治経済学部准教授,専攻は文化人類学,アフリカ地域研究.主要著作に,Présence Africaine: Index alphabétque par auteurs 1947-2016 (Présence Africaine, 2021),『ガーロコイレ――ニジェール西部農村社会をめぐるモラルと叛乱の民族誌』(平凡社,2013年),主な訳書に,カール・ポランニー『経済と自由――文明の転換』(共訳,筑摩書房,2015年),クロード・レヴィ=ストロース『構造人類学ゼロ』(共訳,中央公論新社,近刊)がある.