火によって
ターハル・ベン=ジェッルーン(岡真理 訳)
中東を革命の炎に包む「アラブの春」の発端となった一青年の焼身自殺。その瞬間を、文学・思想は、いかに表現し、それに応答できるか。打ちのめされ、辱められ、否定され、ついに火花となって世界を燃え上がらせた人間の物語。
「2010年12月の末に始まるチュニジア市民の抗議運動によって、1987年以来、同国に君臨したベン・アリ大統領は翌2011年1月14日、国外に遁走した。……このチュニジアの革命が、30年にわたる大統領独裁のもとにあったエジプト市民を鼓舞し、1月25日の決起へとつながり、さらには同じように独裁政権や抑圧的な体制下にある中東諸国へと広がっていくことになる。これら一連の革命の発端となったのが、チュニジア中部の地方都市、シディ・ブズィドに暮らす貧しい一青年、ムハンマド・ブアズィーズィの焼身自殺という出来事だった。……この出来事を受けてターハル・ベンジェッルーンは独裁体制下の腐敗した社会で、貧しいが実直で聡明な青年が、なぜ、いかにして自らの肉体に火を放ったのかを、そして、その炎がなにゆえに中東の各地に燃え広がったのかを、作家の文学的想像力を駆使して描いた。それが本書『火によって』である」(訳者解説)
著者
ターハル・ベン=ジェッルーン(Tahar Ben Jelloun)
現代フランス語マグレブ文学を代表する作家。1944年モロッコ生まれ、1971年フランスに渡り、1987年『聖なる夜』(邦訳は紀伊國屋書店)でゴンクール賞受賞。邦訳書に『砂の子ども』『最初の愛はいつも最後の愛』『あやまちの夜』(以上、紀伊國屋書店)、『娘に語る人種差別』(青土社)、『出てゆく』(早川書房)、『アラブの春は終わらない』(河出書房)など。
訳者
岡 真理(おか まり)
1960年生まれ。京都大学教授。専攻はアラブ文学、第三世界フェミニズム思想。著書に『記憶/物語』(岩波書店)、『彼女の「正しい」名前とは何か』『棗椰子の木陰で』(以上、青土社)、『アラブ、祈りとしての文学』(みすず書房)など。