希望と憲法──日本国憲法の発話主体と応答
酒井直樹
日本国憲法を、その成立時の国際情勢の多義性のなかに読む。膠着した日米関係を新しい植民地関係という観点から捉え直し、一国中心的な国民主義や人種主義を超えて、国際社会のなかで開かれた構えで現憲法を読み解く壮大な投企。
目次
第1章 憲法の発話者とその応答関係
帝国的国民主義と作為としての国民
普遍主義と日本国憲法の普遍性
植民地体制と新たな国民国家
憲法の「われら」と国民主義
想定される「国民」と歴史的責任
戦争責任と植民地責任
日本国憲法の多義性
第2章 パックス・アメリカーナの黄昏
9・11と日本占領
新たな植民地体制と古典的な国民国家観の限界
植民地体制と共犯関係にある国民主義
「戦後天皇制言説」と太平洋横断的ヘゲモニー
第3章 普遍主義の両義性と「残余」の歴史
戦争の大きな歴史的語り
植民地体制と権力関係
普遍主義と特殊主義
「一視同仁」と個人
人種主義と国際世界
国際世界と国際法
「少数者」と「残余」
第三の歴史的な語り
第4章 競争する帝国=帝国主義者のコンプレックス
「残余」と叛乱の予感
「残余」の国民化
思想戦の継続
普遍主義と特殊主義の共犯関係
人種主義批判の検閲
第5章 国民主義の終焉、あるいは植民地主義の一形態としての国民主義
国民主義という新たな植民地支配
歴史の事実と歴史の語り
人種主義批判の消滅と新たな国民主義
特殊主義の表現としての日本文化
近代化論からの日本文化論
第6章 同一性(アイデンティティ)から希望へ
体制翼賛型少数者の捉え方
演技と登場人物の役割
人称のあり方と国民としての立場
日本人としての自己認知
自己認知と対他性
『蝶々夫人』というアレゴリカルな設定と相互認知の構造
主体的な立場の配置と同一性
普遍性と応答責任
あとがき
付録・「対日政策に関する覚書」
1942年9月14日 E・O・ライシャワー
著者
酒井 直樹(さかい なおき)
1946年生まれ。東京大学文学部卒業。シカゴ大学を経て、現在コーネル大学教授。
著書に『死産された日本語・日本人』、(新曜社、1996年)『日本思想という問題』(岩波書店、1997年)、『〈世界史〉の解体』(西谷修と共著・以文社、1999年)、『過去の声』(以文社、2002年)、『日本/映像/米国』(青土社、2007年)など。