官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則
デヴィッド・グレーバー(酒井隆史 訳)
全面的官僚制化の時代とはなにか?
「規制緩和」という、現代社会において例外なく「よきこと」とされる「改革」への障壁として、あいかわらず真っ先にその槍玉に挙げられる「官僚制」。しかし、政府による経済介入の縮小政策は、むしろより多くの規制、官僚、警察官を生みだし、そして「自由な」市場経済を維持するためには、それまで以上のお役所仕事が必要になるという逆説。
こうした逆説のために、「自由」や「合理」という観念の基本は揺らぎ、人びとは、コラボだのグループワークだの、自己点検、自己評価、創発性…といった言葉で表されるような「クリエイティヴ」を売りにし、自らを演じることを強要される。そして、日常における各人の立ち位置は不明瞭となり、自己責任ばかりが強調される雰囲気が醸し出される。
本書は、こうした事態を「全面的官僚制化の時代」と名指し、ある種の政策を実現するための「旗印」としてばかり利用される「官僚制批判」を、かつてのように再び私たちのもとへと取り戻すための傑出した現代社会分析である。
目次
序 リベラリズムの鉄則と全面的官僚制化の時代
リベラリズムの鉄則
1 物理的暴力そのものの重要性を過小評価してはならない。
2 原則としてのテクノロジーの重要性を過大評価するな。
1 想像力の死角? 構造的愚かさについての一考察
2 空飛ぶ自動車と利潤率の傾向的低下
テーゼ:1970年代に、いまとはちがう未来の可能性と結びついたテクノロジーへの投資から、労働規律や社会的統制を促進させるテクノロジーへの投資の根本的転換がはじまったとみなしうる。
アンチテーゼ:とはいえ、莫大な資金をえている科学やテクノロジーの領域すらも、もともと期待されていたブレイクスルーをみていない。
ジンテーゼ:詩的テクノロジー(Poetic Thechnologies)から官僚制的テクノロジー(Bureaucratic Thechnologies)への移行について
3 規則(ルール)のユートピア、あるいは、つまるところ、なぜわたしたちは心から官僚制を愛しているのか
1 脱魔術化の魔術化、あるいは郵便局の魅力
2 精神性の一形式としての合理主義
3 反官僚制的ファンタジーの官僚制化について
4 規則(ルール)のユートピア
補論 バットマンと構成的権力の問題について
訳者あとがき
著者
デヴィッド・グレーバー(David Graeber)
1961年、ニューヨーク生まれ。文化人類学者・アクティヴィスト。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学人類学教授。
訳書に、
『アナーキスト人類学のための断章』(2006年)
『負債論』(2016年)ほか。
日本語のみで出版されたインタビュー集として『資本主義後の世界のために』(以文社、2009年)がある。
著書に、
Bullshit Jobs: The Rise of Pointless Work, and What We Can Do About It (Penguin, 2019).
Toward an Anthropological Theory of Value: The False Coin of Our Own Dreams (Palgrave, 2001、以文社より近刊予定).
Lost People: Magic and the Legacy of Slavery in Madagascar (Indiana University Press, 2007).
Direct Action: An Ethnography (AK Press, 2007). ほか多数。
マーシャル・サーリンズとの共著に、On Kings (HAU, 2017) がある(以文社より刊行予定)。
訳者
酒井隆史 (さかい たかし)
大阪府立大学。社会思想史、都市形成史。
著書に、
『自由論』(青土社、2001年)※2019年8月『完全版 自由論』が河出文庫より刊行。
『暴力の哲学』(河出書房新社、2004年)※2016年、河出文庫。
『通天閣』(青土社、2011年)など。
訳書に、
スラヴォイ・ジジェク『否定的なもののもとへの滞留』ちくま学芸文庫(共訳)
マイケル・ハート、アントニオ・ネグリ『〈帝国〉』以文社(共訳)
マイク・ディヴィス『スラムの惑星』明石書店(監訳)など。