問題=物質となる身体── 「セックス」の言説的境界について
ジュディス・バトラー(佐藤嘉幸 監訳、竹村和子、越智博美 訳)
問題なのは身体だ。
『ジェンダー・トラブル』によって明らかにされた権力と言説によるジェンダー形成の過程。ジェンダー/クィアに関する理論書である同書は、フェミニズムやジェンダー、クィア・スタディーズにおいて画期をなすと同時に、多くの物議を醸した。
「ジェンダー」と同じく、「セックス」は言説によって構築されるものなのか。そのとき、身体の物質性はいかに理解されるのか。
本書は、『ジェンダー・トラブル』へ寄せられた批判に応答した、その続編であり、バトラーの「もうひとつの主著」である。
本書の原題 Bodies That Matter における”Matter”は「問題=物質」という二重の意味を持つ。これを強調して邦題は『問題=物質(マター)となる身体』とした。
アルチュセールの「呼びかけ」、オースティンの「行為遂行性」、フロイト/ラカンの「身体的自我」「ファルス」、フーコーの「系譜学」「主体化=服従化」、デリダの「脱構築」「ファルス=ロゴス中心主義」、イリガライ/デリダの「コーラ」、クリステヴァの「アブジェクション」など多くの思想家・著述家を参照しながら、規範的権力によって構築されるセックス、ジェンダー、人種などの既存の境界を撹乱する試み。
近年、改めて注目が高まるフェミニズムやLGBTQ、ブラック・ライヴズ・マターに代表される「人種」の問題にも接続しうる現代の理論書。
メディア情報
監訳者の佐藤嘉幸さんによる本書の紹介記事が以下の表象文化論学会ウェブサイトにアップされいます。
https://www.repre.org/repre/vol43/books/translation/satou/
また、本書のオンライン合評会(2021年7月25日(日))も以下より視聴できます。
https://www.youtube.com/watch?v=IMvWwNiNRf4
発表者: 清水晶子(東京大学) 千葉雅也(立命館大学) 藤高和輝(京都産業大学) 越智博美(専修大学) 佐藤嘉幸(筑波大学)
目次
日本語版への序文
謝 辞
序 文
序 章
第1部
第1章 問題=物質となる身体
第2章 レズビアン・ファルスと形態的想像界
第3章 《幻想》的同一化とセックスの引き受け
第4章 ジェンダーは燃えている――我有化と転覆の問い
第2部
第5章 「横断危険」――ウィラ・キャザーの男性的名前
第6章 パッシング、クィアリング――ネラ・ラーセンの精神分析的挑戦
第7章 現実界と論争する
第8章 批判的にクィア
註
すべての理論はマイノリティ性へと生成変化しなければならない──『問題=物質となる身体』解説(佐藤嘉幸)
訳者あとがき
著者
ジュディス・バトラー (judith butler)
カリフォルニア大学バークレー校教授。主な著書に『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの撹乱』『アンティゴネーの主張――問い直される親族関係』(以上、竹村和子訳、青土社)、『アセンブリ――行為遂行性・複数性・政治』(佐藤嘉幸・清水知子訳、青土社)、『分かれ道――ユダヤ性とシオニズム批判』(大橋洋一・岸まどか訳、青土社)、『権力の心的な生――主体化=服従化に関する諸理論』『自分自身を説明すること――倫理的暴力の批判』(以上、佐藤嘉幸・清水知子訳、月曜社)、『生のあやうさ――哀悼と暴力の政治学』(本橋哲也訳、以文社)、『戦争の枠組――生はいつ嘆きうるものであるのか』(清水晶子訳、筑摩書房)、『触発する言葉――言葉・権力・行為体』(竹村和子訳、岩波書店)、『欲望の主体――ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義』(大河内泰樹・岡崎佑香・岡崎龍・野尻英一訳、堀之内出版)、『偶発性・ヘゲモニー・普遍性――新しい対抗政治への対話』(エルネスト・ラクラウ、スラヴォイ・ジジェクとの共著、竹村和子・村山敏勝訳、青土社)、『国家を歌うのは誰か?――グローバル・ステイトにおける言語・政治・帰属』(ガヤトリ・スピヴァクとの共著、竹村和子訳、岩波書店)などがある。
佐藤嘉幸 (サトウ ヨシユキ) (監訳)
筑波大学人文社会系准教授。京都大学大学院経済学研究科博士課程を修了後、パリ第10大学大学院で博士号(哲学)取得。専門は哲学/思想史。著書に『権力と抵抗――フーコー・ドゥルーズ・デリダ・アルチュセール』、『新自由主義と権力――フーコーから現在性の哲学へ』、『脱原発の哲学』(田口卓臣との共著)(以上、人文書院)、『三つの革命――ドゥルーズ=ガタリの政治哲学』(廣瀬純との共著、講談社選書メチエ)、『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』(立木康介との共編著、水声社)。訳書に、ミシェル・フーコー『ユートピア的身体/ヘテロトピア』(水声社)、ジャック・デリダ『獣と主権者II』(白水社、西山雄二らとの共訳)など。
竹村和子 (タケムラ カズコ) (翻訳)
元お茶の水女子大学大学院人間文化研究科教授。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。筑波大学大学院博士課程退学。人文科学博士。琉球大学名誉博士。専門は英語圏文学、批評理論。2011年死去。主な著書に『境界を撹乱する――性・生・暴力』『愛について――アイデンティティと欲望の政治学』、『思考のフロンティア フェミニズム』(以上、岩波書店)、『文学力の挑戦 ――ファミリー・欲望・テロリズム』(研究社)、『彼女は何を視ているのか――映像表象と欲望の深層』(作品社)、『かくも多彩な女たちの軌跡』『女というイデオロギー』(以上、海老根静江との共編著、南雲堂)など。
越智博美 (オチ ヒロミ) (翻訳)
専修大学国際コミュニケーション学部教授。お茶の水女子大学博士号(人文科学)取得。専門はアメリカ文学、文化。著書に『カポーティ――人と文学』(勉誠出版)、『モダニズムの南部的瞬間――アメリカ南部詩人と冷戦』(研究社)、『ジェンダーから世界を読むII』(中野知律との共編著、明石書店)、『ジェンダーにおける「承認」と「再分配」――格差、文化、イスラーム』(河野真太郎との共編著、彩流社)。訳書にコーネル・ウェスト『民主主義の問題』(三浦玲一、松井優子との共訳、法政大学出版会)など。