カンギレム『正常と病理』を読む
生命と規範の哲学
ギヨーム・ルブラン
ガストン・バシュラールの後継者として、偉大な科学史家として、フランスのエピステモロジーを牽引したジョルジュ・カンギレム。ミシェル・フーコーやフランソワ・ダゴニェらにも大きな影響を与えたことで知られる。
その主著『正常と病理』を、カンギレムに直接指導を受けた著者が精緻に読み解き、その現代的意義を新たに開く。
【原書表紙の内容紹介より】
カンギレムは、偉大な科学史家であるだけでなく、バシュラールの後に続くエピステモロジー的合理性の哲学者であると長きにわたって考えられてきた。彼が1943年から発展させてきた病気と健康についての諸問題は、このような合理性の根底に、批判的エピステモロジーが依拠する第一哲学の存在を想定している。
この第一哲学は、カンギレムによって打ち立てられた、一方では生命と規範の、他方では生命と認識の関係の中に存在する。生命とは規範の創造である。生命の規範であれ、社会の規範であれ、唯一の規範性というものは存在しない。存在するのは、諸個人の社会への所属の仕方によってさまざまに決定され、理解される生の多様な形式である。いかにして、唯一の規範性への批判によって、生物学的であり社会的でもある生命ある存在の哲学的再定式化に行きつけるのか、それこそが、たえず考え直され、修正され続けたカンギレムの著作『正常と病理』を貫く最も重要な企図であり、われわれが提案するのはその再読である。
目次
日本語版への序文
序 論
哲学と規範
病に試される生命
社会的諸規範と生命の間での主体の創造
科学のある種の観念――誤謬と歴史
結 論
訳者解説
著者
ギヨーム・ルブラン(Guillaume Le Blanc)
1966年生まれ。博士論文『生命的なものと社会的なもの―諸規範の歴史』で1999年に博士号取得後、ボルドー第三大学教授、パリ東クレテイユ大学教授を経て現在パリ・シテ大学教授。専門は社会哲学・政治哲学。カンギレムとフーコーの思想を受け継ぎ、規範と正常の問題を、ホームレス、移民、難民など、そこから排除されている人々の生の側から考察する著作を多数発表している。近著に『歓待の終わり』(ファビエンヌ・ブルジェールとの共著、2017年、スイユ社)、『小さな生の反乱』(バイヤール社、2014年)、『対抗文化としての哲学』(PUF、2014年)など。1998年に刊行された本書はルブランの最初の著作である。
訳者
坂本 尚志 (さかもと たかし)
1976年生まれ。京都薬科大学准教授。専門は20世紀フランス思想史、哲学教育。本書に関係する論文としては以下のものがある。「カンギレムとヘーゲル――概念の哲学としての生命の哲学」(『主体の論理・概念の倫理―20世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』上野修、米虫正巳、近藤和敬編、以文社、2017年)「規範化される生から規範をつくる生へ――カンギレムと八〇年代のフーコー」(佐藤嘉幸、立木康介編『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』、水声社、2021年)。