パストゥールあるいは微生物の戦争と平和、ならびに「非還元」
ブリュノ・ラトゥール/荒金直人訳
還元主義の酔いから覚めて――。
2022年に逝去した科学人類学の巨星、未だ汲み尽くせぬその思想の根本である名著、ついに邦訳。
1984年に刊行された本書は、生涯、ラトゥール自身がその着想の源泉としたルイ・パストゥールによる微生物研究の、その社会的側面を分析する第Ⅰ部「パストゥールあるいは微生物の戦争と平和」、そしてラトゥールの哲学・思想の根本をなすと言える「非還元」の思想が展開される第Ⅱ部「非還元」からなる。
パストゥールおよびパストゥール派の研究を通じて、自然・科学・社会の関係を問い直し、ラトゥールは科学を社会に還元することからも、両者を区別することからも遠ざかっていく。
「如何なるものもおのずから他の如何なるものにも還元可能でも還元不可能でもない」
このように定義される「非還元性の原則」は、人やモノを対称的に扱うラトゥールのアクターネットワーク(行為者の網)理論のまさに中核をなしている。
ラトゥール哲学・思想を知るための必読の書。
目次
新版〔二〇〇一年〕への序文
第Ⅰ部 パストゥールあるいは微生物の戦争と平和
資料と方法
第一章 微生物の力と弱さ、衛生学者の弱さと力
第二章 あなたたちが微生物の導き手になるのだ
第三章 戦争と平和
第Ⅱ部 非還元
導 入
第一章 弱さから強さへ
第二章 結合の論理
第三章 人間の論理
第四章 科学の「非還元」
訳者解題(荒金直人)
用語索引
原語と訳語の対照表
文献目録
著者
ブリュノ・ラトゥール (Bruno Latour)
人間・非人間に拘らず、あらゆる物理的・抽象的・概念的存在を行為者と見做し、無数の行為者の関係としてのこの世界の構築的・被構築的性質を捉えようとしたフランスの哲学者。科学と政治の関係を問い、両者を分離して制御しようとした近代特有の構造では捉え切れないものとして、地球環境問題に注目した。主な邦訳文献として『ラボラトリー・ライフ――科学的事実の構築』(スティーヴ・ウールガーとの共著、立石裕二/森下翔監訳、ナカニシヤ出版)、『科学が作られているとき――人類学的考察』(川崎勝/紀代志訳、産業図書)、『虚構の「近代」――科学人類学は警告する』(川村久美子訳、新評論)、『科学論の実在――パンドラの希望』(川崎勝/平川秀幸訳、産業図書)、『社会的なものを組み直す――アクターネットワーク理論入門』(伊藤嘉高訳、法政大学出版局)、『近代の〈物神事実〉崇拝について――ならびに「聖像衝突」』(荒金直人訳、以文社)、『諸世界の戦争――平和はいかが?』(工藤晋訳、以文社)、『地球に降り立つ――新気候体制を生き抜くための政治』(川村久美子訳、新評論)など。
訳者
荒金 直人 (あらかね なおと)
1969年生まれ。ニース・ソフィア・アンティポリス大学(フランス)にて哲学博士号を取得。慶應義塾大学理工学部准教授。著書に『写真の存在論――ロラン・バルト『明るい部屋』の思想』(慶應義塾大学出版局)、訳書にジャック・デリダ著『フッサール哲学における発生の問題』(共著、みすず書房)、ブリュノ・ラトゥール著『近代の〈物神事実〉崇拝について――ならびに「聖像衝突」』(以文社)など。