マニフェスト 政治の詩学
エドゥアール・グリッサン
パトリック・シャモワゾー
中村隆之 訳
「ユートピアはいつでも私たちに欠けている道である」
カリブ海マルティニック島の大作家で、数々の著名な仏文学賞を受賞してきたエドゥアール・グリッサンとパトリック・シャモワゾーが、2000年〜2009年にかけ発表してきた政治的声明、つまりは彼らの「マニフェスト」集。
フランスの旧植民地で、現在は同海外県のマルティニック(およびDROM-COM)に降りかかってきた数々の試練のたび、二人の作家は声を上げてきた。しかし、自らをジャーナリストや政治運動家ではなく、あくまで作家だと位置付ける彼らは、急を要する声明のなかにも、かならず人々の感性に訴える「詩の力」「言葉の力」を込め、マルティニックやフランス、ひいては地球全体を少しずつでも変化させていこうとする──未来に希望を託した──態度を崩すことはなかった。その詩人・文学者としての矜持がここに集約される。
2010 年『思想』(岩波書店)に訳出され、たちまち話題となった「高度必需「品」宣言」、オバマ大統領就任時の書簡「世界の妥協なき美しさ」、2007年にフランス政府が設置した「国民アイデンティティ省」(2010年に解散)に対しての原理的な反国民アイデンティティ論など、必読の政治評論集。訳者による詳細な解説付き。
目次
はじめに それでもなお(パトリック・シャモワゾー)
グローバル・プロジェクト宣言 DOM再建宣言
遠くから…… フランス共和国内務大臣のマルティニック訪問にあたっての公開書簡
ディーンは通過した、再生しなくてはならない。いますぐ!
壁が崩れおちるとき 法の外の国民アイデンティティ?
世界の妥協なき美しさ バラク・オバマへ
高度必需「品」宣言
あとがき 政治の詩学(エドウィー・プレネル)
訳者あとがき 唯一のリアリズムとしてのユートピア(中村隆之)
著者
エドゥアール・グリッサン(Édouard Glissant)
カリブ海マルティニック島出身のフランス語作家・思想家(1928-2011)。
日本語訳に『レザルド川』(現代企画室)、『第四世紀』、『カリブ海序説』(近刊)、『〈関係〉の詩学』、『フォークナー,ミシシッピ』(以上,インスクリプト)、『憤死』、『痕跡』、『マホガニー』、『ラマンタンの入江』(以上,水声社)、『多様なるものの詩学序説』(以文社)、『全-世界論』(みすず書房)がある。
パトリック・シャモワゾー(Patrick Chamoiseau)
カリブ海マルティニック島出身のフランス語作家(1953年生まれ)。日本語訳に『素晴らしきソリボ』(河出書房新社)、『クレオール礼賛』(共著)、『クレオールとは何か』(共著)、『テキサコ』(以上,平凡社)。『幼い頃のむかし』、『カリブ海偽典』(以上,紀伊國屋書店)、『クレオールの民話』(青土社)がある。
訳者
中村 隆之(なかむら たかゆき)
早稲田大学法学学術院教員。フランス語を中心とする環大西洋文化研究。著作に『カリブ-世界論』、『環大西洋政治詩学』(以上,人文書院)、『エドゥアール・グリッサン』(岩波書店)、『野蛮の言説』(春陽堂書店)など。訳書にル・クレジオ『氷山へ』(水声社)、『ダヴィッド・ジョップ詩集』(夜光社)などがある。