ノット・ライク・ディス
トランスジェンダーと身体の哲学
藤高和輝
「真理はあなたのなかに存在する。私たちは自分を曲げなくていい」
身体とは何か。ほかならぬ、誰もが生きているこの「私の身体」とは何か。本書は、トランスジェンダーの身体経験の分析を通し、そのトランスの身体を(シスジェンダーに対して)「特殊な」身体、「特殊な」経験とみなすのでなく、かつ、そのトランスジェンダーに対する既存の病理学的な認識図式を批判し、「トランスにとっての身体とは何か」のみならず、誰もが生きているこの「私の身体」とは何かを問いかける。
病理学的図式、デカルト的図式、構築主義的図式という「心身二元論」から発する「神話」を解体し、そのアポリアを問うとともに、オルタナティヴな理論的枠組みの提示を試みる。
目次
序 章 マトリックスの夢、あるいは真理の場所
第一章 感じられた身体―― トランスジェンダーと『知覚の現象学』
第二章 身体を書き直す―― トランスジェンダー理論としての『ジェンダー・トラブル』
第三章 たったひとつの、私のものではない、私の身体
第四章 パスの現象学 ―― トランスジェンダーとサルトルの眼差し
第五章 ポストフェミニズムとしてのトランス?―― 千田有紀「「女」の境界線を引きなおす」を読み解く
第六章 語りを掘り起こす――トランスの物質性とその抹消に抗する語り
第七章 トランス・アイデンティティーズ、あるいは「名のなかにあるもの」について
終 章 「私は自分の身体を愛することができるか」
あとがき
著者
藤高 和輝(ふじたか かずき)
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。京都産業大学准教授。著書に、『ジュディス・バトラー――生と哲学を賭けた闘い』(以文社)、『〈トラブル〉としてのフェミニズム――「とり乱させない抑圧」に抗して』(青土社)。共著書に、『フェミニスト現象学入門――経験から「普通」を問い直す』(ナカニシヤ出版)、『フェミニスト現象学――経験が響き合う場所へ』(ナカニシヤ出版)、『クィア・スタディーズをひらく3――健康/病、障害、身体』(晃洋書房)など。翻訳書に、ゲイル・サラモン『身体を引き受ける――トランスジェンダーと物質性のレトリック』(以文社)。